サムライの姿勢17話 腰痛持ちの賢い生き方 その3
【20年止まったままの腰痛診療】
エジプトに滞在しているはずだった9日間が、病院巡りとなったわけですが、幸いにも知人による助けで、3名の著名な脊椎外科医の診察を受けることができました。
3名ともMRIの画像所見を見て、「間違いなく、椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛」という診断でしたが、一人も手術を勧めてきませんでした。
一般的な外科医だったら手術を勧めてもおかしくない状態なのに、あえて保存療法を推奨してきたことに感心しました。
一方、診察室で行われた検査は、神経学検査、筋力検査、反射検査の3種類のみで、所要時間はたったの2分間でした。
腰痛の本質的な原因を探るためには、既往歴、職業、スポーツ歴、ライフスタイルの問診から始まり、姿勢検査、歩行分析、呼吸パターンの他に、屈み方、しゃがみ方、ねじり方といった機能的な検査も実施する必要があります。
しかしながら、患者の体に指一本触れることなく、パソコンに向かって患者のデータを入力しながら、診断をしてしまう医師が山ほどいるのが現実です。
【腰を診て人を診ず】
日本の医療は、健康保険がベースとなっているため、一人当たりの診察時間に数分しか割けないのは仕方がない面もありますが、数分間であっても、もっと必要な情報を沢山得る方法はあるはずです。
「腰を診て人を診ず」。既存の悪しき診療形式が変わらない限り、今後も医療機関では「腰痛は原因がわかりにくい症状」であり続け、「不要な手術」を受ける患者と、治るはずの腰痛を慢性化させてしまう人の数は減らないことでしょう。
【ヘルニアがあっても痛くないのは、なぜ?】
脊椎外科の診察を受けて、新しい発見も幾つかありました。なかでも「椎間板ヘルニアがあっても、痛い人と痛くない人がいる」また、「なぜヘルニアが神経を圧迫しているのに、1カ月位経つと症状が緩和するのか」という疑問に対する答えです。
その内容とは、「飛び出した椎間板や変形した骨が、脊髄や神経を落ち潰していたら、痛みや痺れが発症しないケースはほとんどない。
無自覚だとすれば、それは神経の病変。写真には神経が圧迫され、映っていても、まだ神経が逃るスペースがある場合は、症状が軽度で済むこともある」
また、椎間板ヘルによって眠れないほどの痛みや、数十メートの歩行が困難になっても、暫くすると症状が治まって歩けるようになるのは、「神経の炎症が治まると、神経の腫れがひいて圧迫されなくなる。患部周辺に分泌された炎症物質が吸収されて痛みが改善する」。
【学んだ事】
今回の事を経験して身をもって知らされた事は、神経に炎症が起きてしまったら「時間薬」による効能を辛抱強く待つことです。
弾薬庫に引火したら、火薬が無くなるまで爆発・炎上し続けるように、脊髄、神経根が炎症(引火)を起こしたら(真性の神経症状)、それが治るまでは、いかなる治療も効果が持続し難いということです。
ただし、こういう重篤なケースは腰痛を訴える患者さんの15%程度で、それ以外は筋筋膜性の腰痛の可能性が高いう事です。(多くの腰痛症の病巣が、画像検査に描写されないワケがここにある)
つまり、専門家によるマッサージや鍼治療、セルフケアで症状を改善できるわけです。
椎間板ヘルニアや脊柱管・椎間関節の狭窄があったとしても幾つかの事を守っていれば、腰痛を発症させずに暮らしていけるということです。ちょっと希望がもてますよね。
つづく。