第3回 侍の姿勢『ブレないスタンス』

サンパウロのNIKKEI新聞で連載される記事を、本サイトでも掲載して参ります。

第3回 侍の姿勢『ブレないスタンス』

 地に足をつける。当たり前のことのようですが、とても奥が深いことです。この言葉には、「足の裏を地面につけて立つ」という意味と、「身の丈を知る」という意味があると私は解釈しています。社会の状況が目まぐるしく変化する中で、自分らしさを保って生きていくためには、地に足をつける感覚と意識が大切だと思います。

 (grounding)
 英語では、しっかりと地面に立つことをgroundingと言います。groundingするためには、自分に適したスタンス=足幅を知り、それをキープするように努めることが大事です。現代人の多くは、1日のなかで座っている時間が圧倒的に多く、足の裏で体を支える感覚が退化しています。スタンスが定まっていない人は、おおむね姿勢が悪くてバランスを崩しやすく、安定感がありません。
 一方、スタンスが定まっている人は、肉体と精神の両面で安定していて、どんな状況でもバランスと平常心を保っています。足裏を地につけてバランスが安定すると、副交感神経が活性化して余分な力みや緊張が抜けるため、心身ともにリラックスできるのです。

 (トップアスリートのスタンス)
 これまでに、数々のトップアスリートのトレーニングやコンディショニングに携わってきましたが、高いパフォーマンスを発揮し続けるアスリートに共通しているのは、磐石なスタンスを築いていることです。どんなに激しく動いても、一定のスタンスを保ち続け、バランスを崩しても直ぐにスタンスを戻せるように鍛錬されています。力強いパフォーマンスと美しい動作フォームは、揺るぎないスタンスのうえに成り立っているわけです。

 (最適なスタンスとは)
 では、早速自分に最適なスタンスをみつけてみましょう。方法はシンプルで、その場で高くジャンプするだけです。着地したとき、いつもの足幅よりも広くなっていませんか?そのスタンスが、あなたの体に適した足幅なのです。幼い頃から「気をつけ!」を叩き込まれてきた日本人のスタンスは、他民族と比べて明らかに狭く、自然体かつ機能的であるとは言えません。東京タワーのように裾が広がっている方が良いのです。
 立っているとき、座っているときに、着地したときのスタンスをできるだけ維持するように心がけてください。
映画007のジェームス・ボンド役のダニエル・クレイグは、歴代のボンド役の俳優たちと比べて背丈が低く、関係者からは「ヒールを履いたボンドガールより小さい」と揶揄されていました。周囲の雑音に対して、ダニエルはスタンスを大きくとることによって、男らしさとタフさを前面に押し出したのです。記者発表の場でも、彼はスタンスを広くしています。

(つま先を開いて尻を活かす) 
 日本人には、つま先を正面か内側に向けて立ったり歩いたりする習性があります。これは、和装だった時代の内股歩きの影響によるものですが、和装から洋装へと変化した今も、この癖は抜けていません。
 しかし、この立ち方や歩き方では、姿勢を真っ直ぐに保たせる大殿筋が働かず、猫背になってしまうか、前かがみの姿勢になってしまうのです。そして、お尻も垂れ下がります。日本人のお尻が垂れやすい理由の一つが、ここにあります。
 これまでより、つま先を5〜10度外側に向けて立つか座る習慣をつけるだけで、お尻に力が入りやすくなり、凛とした姿勢がキープしやすくなるのです。サムライの姿勢のベースは、つま先を開いてお尻の割れ目をキュッと締めておくことです。

 (パラレルとスプリット)
 立ち方には、両足を揃える「パラレル」と、前後に開く「スプリット」があります。スプリット・スタンスの方が前後のバランスが保ちやすく、直ちに次の動作に移ることができます。多くのスポーツにおいて、スプリット・スタンスで構えるアスリートが多いのは、打撃やスローイング動作による上半身の捻じれを支えるためと、相手の動きに即応するためです。

パラレル

スプリット

 パラレル・スタンスが染み付いている日本人には、スプリットで立つことに、少々抵抗を感じるかも知れませんが、スプリット・スタンスは立ち姿が半身になるため、動きだしがスムーズで、体のラインも細く見えるのです。この立ち方のときは、ときどき前に出す足を入れ替えるようにして下さい。
 椅子から立ち上がるときも、スプリット・スタンスにして、後ろ足のつま先で地面を蹴ればスムーズに立てます。習慣化すると様々なメリットをもたらしてくれるので、是非ともトライしてみて下さい。