避難所生活で腰を痛めない座り方

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熊本の避難所の映像をテレビで見ると、3.11の大地震から間もなくして訪れた、亘理町と山本町の避難所で行ったセミナーを思い出します。

当然の事ですが、体育館には、形容し難い独特な空気が漂っていました。被災者の方々を励まそうと避難所に来る方たちの余興に、「今は静かに放っておいて」という空気も感じられました。

津波によって、街が丸ごと消えてしまった荒地を見た後で、被災者の方にかける適当な言葉など、何も思い当たりませんでした。
避難所になった体育館の舞台に立った時、頭が真っ白になったのを覚えています。

腰を痛めない床座り

そんな雰囲気の中で、私が短時間で伝えようとした事は、「避難所で腰を痛めない座り方」でした。
長時間のあぐらや体育座りは、腰部の筋肉や靭帯、椎間板に持続的なストレスを与えるため、腰痛の発症率を劇的に高めます。

いつか、避難所を出られる日が来たときに、腰が痛くて動けない、仕事に復帰できないなんて事にならないように、配給された毛布や布団を使って、結跏趺坐(けっかふざ)という、腰に負担の少ない禅の座り方を紹介したのです。

仏像に答えあり

仏像の背筋を見ると、どれも理想的なS字になっています。これをニュートラル・スパインと呼びます。
ニュートラル・スパインで座っている時は、頭と上半身の重さを、背骨の関節が支えてくれます。

つまり、消耗しにくい「骨」で座っているわけです。
仏像の凛とした姿は、生体力学や人間工学の観点できっても理に適っていて、余計な力が抜けているからこそ見ているものを安心させるのでしょう。

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一方、骨盤が後ろに傾いて、ニュートラル・スパインが崩れると、骨ではなく「肉」で支えることになります。
猫背のあぐらは、首や腰の筋肉と靭帯、椎間板にダメージ蓄積させていき、やがて組織の変形や炎症の原因となって痛みを生じさせるのです。

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赤ちゃんがお手本

骨で座るか、肉で座るか。
体にとっては、大きな違いです。
この二つを分けるのは、座っている時に、骨盤が立っているか寝ているかです。

実は、座り姿勢の模範は赤ちゃんなのです。
4頭身のために、バランスを崩して転倒し易い赤ちゃんの姿勢と動作パターンは、全ての面で理にかなっていて、私たち大人が見習うべき要素が沢山あります。

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特に注目すべき点は、赤ちゃんの骨盤が常に立っていて、頭が胴体の真上に位置していることです。同じような姿勢が出来ている大人は、殆どいないでしょう。

健康の第一条件は、「立腰」の時間を増やすことに他なりません。
立腰とは、骨盤が立っていて腰椎に緩やかな反りがある状態です。
床へ直に座ってしまったら、立腰にしてニュートラル・スパインを維持することが困難になります。だからこそ、何かのサポートが必要になるのです。

布団や毛布で腰を保護する

避難所生活のように極端に長い時間、床に座わらざるをえない場合は、畳んだ布団や毛布の上にお尻を載せて、あぐらをかくようにして下さい。
畳む厚さは、膝より骨盤が高くなるようにします。こうすることにより、自然と立腰になり、結跏趺坐にちかい姿勢がとりやすくなるのです。

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もう一つ、オススメの座り方は片膝を立てた輪王坐です。
常に姿勢を整えていたのでは窮屈になるので、意識的に姿勢を崩すことも大切です。

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この片膝を立てた座り方も、腰への負担が幾分か減ります。時々、立てる脚を入れ換えるようにして下さい。

エコノミー症候群の予防に

ただし、座っていること自体が、全身の血流を低下させてしまうので、30分に一度は立ち上がって、数分でも歩くようにして下さい。
エコノミー症候群を予防するためにも重要です。

これは避難所で過ごされている方だけでなく、日常生活にも活用して頂きたい座り方です。

今後の数回は、避難所などの限られたスペースで行えて、体の機能を維持するために大事なセルフケアを紹介します。