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サムライの姿勢 最終回「腰痛持ちの賢い暮らし方」

 サムライの姿勢は最終回を迎えます。おかげさまで、最後までやり終えられたことを読者の皆様と、ニッケイ新聞の方々に感謝申し上げます。
 
 さて、本話では腰痛を発症させないセルフケアについてお話します。
最近では、筋膜を緩める健康グッズが通信販売などで手軽に購入できるようになりました。アイテムを購入しなくても、テニスボールやソフトボールで代用することもできます。
 
 前号で下半身のコンディショニングの重要性についてお伝えしましたが、アプローチする順番も大事で、マッサージの効果に影響があります。
股関節の動きを維持して、腰への負担を減らすために、スネ→ふくらはぎ(主に外側)→お尻の外側→仙骨の順でほぐしていきます。

【腰痛の発症を予防するセルフマッサージ】

① スネとふくらはぎ

 加齢とともに脛の前の筋肉の機能が衰えます。つまずきやすくなったり、深くしゃがめなくなったりするのは、スネの筋肉が硬くなっているサインです。
 スネの筋肉の機能は、足関節とひざ関節の機能だけでなく、股関節の可動性にも大きな影響を与えます。仰向けで寝ると腰が反って痛みが出る場合は、スネの筋肉をほぐすと改善されるはずです。
 ふくらはぎの外側には、太い神経が走っているため、この部分が硬くなると痺れや感覚の異常が起きやすくなります。
 画像のように、スネとふくらはぎの外側の疲労と強張りを、定期的にマッサージすることによって、脚全体のコンディションが改善されて、坐骨神経痛の改善・予防に繋がるでしょう。

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② 太ももの付け根と尻の外側

 太ももの付け根と尻の外側が凝ると、股関節の機能とスネに鈍痛を放散させます。普通に暮らしていても、この部位には疲労が蓄積しやすく、気づかないうちに凝っています。膝を胸に引き寄せた時に、太ももの付け根が引っかかるような感じがしたら要注意です。
 ここをマッサージ&ストレッチすれば、足先への血流が改善されるだけでなく、膝を胸に引き上げたり、股関節を回したりする動きが大変楽になります。

③ 仙骨

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写真3=仙骨をほぐすマッサージの様子

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写真4=梨状筋をほぐしている様子

 仙骨は体の屋台骨として、背骨を支える重要な骨です。仙骨に付着している筋膜と深部の筋肉が強張ると、屈んだときやしゃがんだときに腰にピリッとした痛みが生じるため、椅子から立ち上がる動作もぎこちなくなります。この部分をボールでほぐせば、右記の動作だけでなく歩き易さが格段に向上します。
 もう一つ、仙骨の脇も大事です。この部位には、坐骨神経の上を通る「梨状筋(りじょうきん)」という筋肉があって、この筋肉が緊張すると坐骨神経をダイレクトに締め付けて、お尻から踵まで広範囲に痛みや感覚異常が生じます。
 多くの場合、脚を組んでいる側の梨状筋が短縮する傾向にあって、坐骨神経痛が発生しやすいと言えます。足がぼんやりと痺れている人や、屈む動作に不安がある方は、是非ともこの部分を入念にほぐしてみて下さい。

【マッサージのコツ】

 ボールマッサージのコツは、少しずつボールが当たっている場所をずらして、ズーンと響く場所を探すことです。響くところにトリガーポイントと呼ばれるシコリが隠れていて、そこが痛みの震源地なのです。
 思わず「ああ! そこだ!」「そこそこ!」と言ってしまう部位が見つかったら、そこを15秒から20秒間圧迫して下さい。2〜3回繰り返すと、強い痛みから心地よい痛みへと変わっていくはずです。圧迫する強さは、10をマックスとしたときに、7を超えないように調整します。
 セルフマッサージは、歯磨きと同じで一生続けていくものです。面倒に思う方もいらっしゃるかも知れませんが、やった分の恩恵は確実に得られるので、日々のルーティンワークに取り入れて頂ければと思います。
 それでは皆さん、またお会いしましょう。

 伊藤和磨 拝

侍20

サムライの姿勢 第19話「腰痛持ちの賢い生き方 その3」

【生命線は股関節】

 先日、「腰痛」をテーマにした健康バラエティ番組に出演しました。スタジオのモニターにVTRが流れ、数人の整形外科たちが次々と登場してインタビューに答えていました。各々が「85%の腰痛は原因がわかっていません」と、お手上げ的な表情でコメントしていました。

 「原因が分からないのは画像検査の結果だけ見て、姿勢分析や下半身の機能テスト、触診をしていないからだろう」と発言したい気持ちをグッと堪えていました。
 私の他に2名の整形外科医が隣にいましたが、彼ら自身が腰痛を経験したことがないので、腰痛の問題を本質から捉えられているとは感じませんでした。
 骨盤や背骨は、宙に浮いているわけではなく、2つの脚の上に載っているため、脚の機能の影響を多分に受けています。なかでも、足関節と股関節の機能がとても重要で、ここが正常に動かないと確実に膝と腰への負担が増大します。

 股関節の構造は、大たい骨の先端にある「ボール」(大たい骨頭)が、かん骨の「ソケット」(かんこつ臼)にハマるかたちになっています。大たい骨のボールを軸として骨盤が前後に回転したり、左右に回転したりすることにより、しゃがんだり屈んだり、体を捻ったりできるのです。

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 しかし、歳をとるにつれて股関節に付着している筋肉や靱帯、関節包が癒着や硬化して、本来の機能を果たせなくなってしまうため、膝や腰にかかる負担が増大します。これが蓄積疲労となって、膝痛や腰痛を起こす原因になるのです。
 つまり、股関節に付着するお尻と太ももの筋肉を、いかにして柔らかく可動性を保つかが、腰痛持ちにとっての生命線となるのです。

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【どこをほぐせば良いのか】

 変形した椎間板や関節を元どおりに整復することは、容易ではありません。では、椎間板ヘルニアや脊柱管狭さく症と診断されてしまったら、一生腰痛に苦しまなければいけないのでしょうか。そんな事はありません。

  足首と股関節の筋肉が短縮・硬化しないように、「ポイント」になる部分のセルフケアをしていれば、腰痛が再発するリスクは極めて小さくなります。
 そのポイントとは、尻と膝裏、すねとふくらはぎの外側です。これらの部位は、腰から足先まで繋がっている太い神経の通り道でもあります。
 解剖実習のときに、検体の脚の神経を殿部から足先まで見られるように解剖していくと、太い神経が太ももやふくらはぎの筋膜にベッタリと癒着しているのが分かりました。
 
 そして、つま先を手前に返すと、坐骨神経が下方に引っ張られる様子もハッキリと目視できました。
要するに、太ももやふくらはぎの筋肉の硬さと長さが、腰部の神経にまで影響を及ぼすということです。もともとヘルニアや関節の変形によって、神経が圧迫されやすくなっている人は、健常者よりも神経症状が出るリスクが圧倒的に高いと言えます。

 これまで、坐骨神経痛など下肢に広がる痛みや痺れは、腰部のヘルニアの治療をしなければ改善できないと考えられてきました。しかしながら、下半身の筋肉をマッサージやストレッチをして柔らかく保つことによって、神経を引っ張るストレスを和らげて、腰痛の再発を回避することができるのです。

 私自身、昨年末からテニスボールやローラーを使って、お尻、太ももの外側、ふくらはぎ、スネを3日に1度のペースでほぐしていますが、あの違和感は全く出ていません。
 次回が最終回となりますが、お勧めのケアグッズを使って、腰痛の発症を予防・改善する方法を詳しくご紹介したいと思います。

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※筆者が愛用しているセルフケアグッズの画像

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サムライの姿勢 第18話「腰痛持ちの暮らし方」

今回のテーマがご好評いただいているそうなので、19話まで続けたいと思います。

【痛み方でわかること】
 首や腰に痛みや痺れを感じたとき、病院に行くとレントゲンやCT、MRIなど画像検査を受けることになるのが一般的ですが、前号でもお話したように愁訴の原因が写真に描出される確率は20%と言われています。
 非科学的に思われるかも知れませんが、痛みを感じている組織が何なのかを鑑別するときに、実は本人の感覚があてになるのです。

 《痛みの原因が骨組織である場合》
 愁訴の原因が骨折や関節の変形にある場合、ズキズキと突き刺すような痛みか、痛みで脂汗をかいたり、吐き気を催したりする激しい痛みが特徴です。放置しておくと時間の経過と共に痛みが強まり、我慢できなくなる

 《痛みの原因が神経組織である場合》
 椎間板ヘルニアや関節の変形、靭帯の肥厚(ひこう)によって、脊髄や神経根が圧迫されている場合は、感覚麻痺や感覚過敏、焼けるような痛み、チリチリとする表面的な痛み、稲妻が走るような痛みが特徴です。

 《痛みの原因が筋・筋膜である場合》
 腰痛や肩こりなど運動器に関する痛みのうち、80%以上の原因は筋・筋膜(靭帯と腱を含む)の癒着や炎症と言われています。これら軟部組織の痛みは、うずくような痛み、部位が特定しにくい漠然とした痛み、こぶしで叩きたくなるような痛み、ぐったりするようなダルい痛みが特徴です。
 また、「動作痛」といって動き出す瞬間や、同じ姿勢を続けていると痛みが強まるのも特徴の一つです。

 昨年末に私が経験した痛みは、なにをしていても大型犬に噛まれているような強烈な痛みで、歩くことも眠ることも出来ませんでした。腰痛を患う人は大勢いますが、このレベルの痛みに至るのは稀なケースです。
 ほとんどのケースは、「椅子から立ち上がる瞬間」「屈んで物を取ろうとしたとき」といった動作にともなう痛みか、「ずっと座っていると辛くなってくる」「立ち続けていると腰が重だるくなる」といった同じ姿勢を続けたときの重だるい痛みです。
 安静時の激しい痛みや手足の痺れ(感覚異常)が生じていないのであれば、炎症が治るまで安静にしていると、自然と症状が治まる可能性が高いでしょう。

【痛みの伝えかた】
 医師に症状を伝える際に、ただ「痛い」とか「痺れる」と言っても、彼らの耳にはタコができているので、多少の工夫が必要です。
以下は一例ですが、医師を本気にさせる表現を列挙してみました。辛さを伝えるときの一助になれば幸いです。

「飛び降りたくなるような」「発狂したくなるような」「誰かを襲いたくなるような」「火で炙られているような」「ちぎれそうな」「犬に噛みつかれているような」「刃物で切られているような」「キリで刺されているような」 

 

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サムライの姿勢17話 腰痛持ちの賢い生き方 その3

【20年止まったままの腰痛診療】

 エジプトに滞在しているはずだった9日間が、病院巡りとなったわけですが、幸いにも知人による助けで、3名の著名な脊椎外科医の診察を受けることができました。

3名ともMRIの画像所見を見て、「間違いなく、椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛」という診断でしたが、一人も手術を勧めてきませんでした。 

 一般的な外科医だったら手術を勧めてもおかしくない状態なのに、あえて保存療法を推奨してきたことに感心しました。
  一方、診察室で行われた検査は、神経学検査、筋力検査、反射検査の3種類のみで、所要時間はたったの2分間でした。

腰痛の本質的な原因を探るためには、既往歴、職業、スポーツ歴、ライフスタイルの問診から始まり、姿勢検査、歩行分析、呼吸パターンの他に、屈み方、しゃがみ方、ねじり方といった機能的な検査も実施する必要があります。

 しかしながら、患者の体に指一本触れることなく、パソコンに向かって患者のデータを入力しながら、診断をしてしまう医師が山ほどいるのが現実です。

【腰を診て人を診ず】

 日本の医療は、健康保険がベースとなっているため、一人当たりの診察時間に数分しか割けないのは仕方がない面もありますが、数分間であっても、もっと必要な情報を沢山得る方法はあるはずです。

 「腰を診て人を診ず」。既存の悪しき診療形式が変わらない限り、今後も医療機関では「腰痛は原因がわかりにくい症状」であり続け、「不要な手術」を受ける患者と、治るはずの腰痛を慢性化させてしまう人の数は減らないことでしょう。

【ヘルニアがあっても痛くないのは、なぜ?】

 脊椎外科の診察を受けて、新しい発見も幾つかありました。なかでも「椎間板ヘルニアがあっても、痛い人と痛くない人がいる」また、「なぜヘルニアが神経を圧迫しているのに、1カ月位経つと症状が緩和するのか」という疑問に対する答えです。

 その内容とは、「飛び出した椎間板や変形した骨が、脊髄や神経を落ち潰していたら、痛みや痺れが発症しないケースはほとんどない。

無自覚だとすれば、それは神経の病変。写真には神経が圧迫され、映っていても、まだ神経が逃るスペースがある場合は、症状が軽度で済むこともある」

 また、椎間板ヘルによって眠れないほどの痛みや、数十メートの歩行が困難になっても、暫くすると症状が治まって歩けるようになるのは、「神経の炎症が治まると、神経の腫れがひいて圧迫されなくなる。患部周辺に分泌された炎症物質が吸収されて痛みが改善する」。

【学んだ事】

 今回の事を経験して身をもって知らされた事は、神経に炎症が起きてしまったら「時間薬」による効能を辛抱強く待つことです。
弾薬庫に引火したら、火薬が無くなるまで爆発・炎上し続けるように、脊髄、神経根が炎症(引火)を起こしたら(真性の神経症状)、それが治るまでは、いかなる治療も効果が持続し難いということです。

ただし、こういう重篤なケースは腰痛を訴える患者さんの15%程度で、それ以外は筋筋膜性の腰痛の可能性が高いう事です。(多くの腰痛症の病巣が、画像検査に描写されないワケがここにある)
つまり、専門家によるマッサージや鍼治療、セルフケアで症状を改善できるわけです。

椎間板ヘルニアや脊柱管・椎間関節の狭窄があったとしても幾つかの事を守っていれば、腰痛を発症させずに暮らしていけるということです。ちょっと希望がもてますよね。

つづく。

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腰痛持ちの賢い暮らし方 その2

【人生で最も痛い経験】

 昨年の8月、ひどい坐骨神経痛を19年ぶりに味わいました。左側の尻とすねの外側が、なにをしていても激しく痛み、夜も眠れないほどでした。ずっと犬に噛まれているような強烈な痛みです。

 若い頃から腰痛持ちで、10代のときに6回もギックリ腰を経験していますが、その頃の痛みと比較すると、今回の痛みの方が遥かに辛いものでした。

 どんな治療をしても改善しなかったのですが、1ヵ月くらいすると痛みと痺れは、徐々に消失していきました。
「もう、2度とあんな思いはしたくない」そう思っていたのに、それから1ヶ月も経たないうちに、再び悪夢が訪れたのです。

 8月の激痛よりも、さらに激しい痛みで、20メートルも歩くことができなくなりました。コンビニで支払いを済ませる間、痛みに耐えられずにしゃがんでしまうほどの痛みが、尻とすねの外側に拡がりました。

 就寝中、何度も痛みで目覚めてしまい、寝不足の日々でしたが「腰痛改善スペシャリスト」という肩書きを背負っていながら、腰痛で仕事を休むわけにもいかず、いつも通り腰痛で悩んでいる人たちの治療を継続していました。

 その月の下旬に、エジプトへ旅行に行くはずだったのですが、泣く泣く断念して、病院で20年ぶりにMRIを撮ることにしました。検査結果の画像を見たとき、これが自分の脊柱なのかと愕然としました。

 骨と関節が完全に変形し、脊髄と神経根が椎間板ヘルニアにより4カ所で圧迫されていたのです。画像から年齢を推測すると80歳くらいの状態です。

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正常な脊椎と椎間板

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椎間板の水分が抜けて黒ずみ、飛び出している私の椎間板

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同じく自分の画像。ヘルニアが脊髄を圧迫している様子がわかる。椎間板が極薄になっているため、すべり症に発展するリスクが高い。

 16年間、休まず毎日12時間患者の体を治療してきた結果、自分の体に何が起きていたのか、思い知らされた瞬間でした。そして、この先どうやって、この腰をもたせれば良いのかと考えました。(つづく)

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サムライの姿勢 第14話「見せる筋肉」より「使える腹」」

14話では、「姿勢をキープするお腹の使い方」についてご紹介します。腰痛予防に大きな効果があり、運動機能が飛躍的に向上します。

「見ため重視の腹」より、日常生活で威力を発揮する「ホンモノの腹」です。

【6つに割れた腹筋と真っ白な歯】

夏が近づくと6つに割れた腹(6シッパクス)と眩いばかりの白い歯の動画や写真が、TVや雑誌などの広告媒体にのります。
経済的に恵まれた国や地域ほど、この傾向が強くなるように思います。

見るからに怪しい広告もたくさんありますが、それでも多くの人は「短期間で痩せる!」といった宣伝文句に、心を奪われてしまうようです。
実際、美容産業とダイエット産業は、いつの時代も大衆心理を上手に煽って繁盛しています。

しかしながら、割れた腹も眩い歯も、健康に面ではほとんど役に立ちません。やりすぎると、不自然なだけでなく逆に健康を害してしまうのです。

極端なダイエット法や常軌を逸した美容法の多くは、アメリカの西海岸から発生し、世界中に飛び火していきます。
小麦色に焼けた肌とバキッと割れた腹、笑うと光る白い歯は、アメリカ人にとって富と健康のシンボルであり、羨望の的なのでしょう。
個人的には、見た目重視の体づくりは健康を害するケースも多いので、真似して欲しくないと思います。

 

【使える腹】

これまで多くのトップクラスのアスリートを担当してきました。毎日何百回も腹筋運動をやっているにも関わらず、体幹が弱くてポテンシャルを発揮できないアスリートが何人もいました。

ヘラクレスのような体をしているのに弱い。

こういう人は、動作をするための腹筋は強いのですが、姿勢をキープしたり、腰部を保護したりする「インナーコルセット」(腰部を補正する筋肉)が働いていないか弱いのです。

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インナーコルセットの働かせ方を知れば、つらい腹筋運動をたくさんやらなくても、体の機能を大きく向上させられます。

【「ヘソ下を凹ます」または「八の字を閉める」】

達磨大使は、下腹とみぞおち、眉間のそれぞれに、下丹田・中丹田・上丹田があると説きました。インナーコルセットのスイッチをオンにして、体幹の強さを著しく向上さえるのは中丹田と下丹田です。

下丹田の働かせ方は、ヘソ下を1センチへこませるだけです。これを「ドローイン」と呼びます。下腹部を少しへこませるか、おしっこを途中で止める意識をしながら、自然に呼吸をすることができれば完成です。

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上丹田の働かせ方は、肋骨のハの字を少し閉める意識をするだけで十分です。これは「アブドミナル・レーキング」と呼びますが、驚くほど体幹がブレなくなります。同じく呼吸を止めずに、自然な呼吸を続けられたらOKです。

日頃から、下丹田と中丹田のどちらかを意識すれば、姿勢が崩れにくくなり、副次的効果として、下腹もへこみますので是非お試しください。

 

 

 

サムライの姿勢 第13話 「スマホ・シンドローム」

「スマホ・シンドローム」

 今回は、毎日何時間もスマートフォンを操作している「スマートフォンシンドローム」の人たちが患いやすい、身体的なダメージについてお話します。
「首と肩が慢性的に凝っている」という方、もしかしたら、携帯を操作している姿勢が原因かも知れませんよ。

【首が垂れた姿勢は最悪】

 現代人の多くは、胴体から頭が垂れ下がった「フォワード・ヘッド・ポスチャー(頭部前方突出姿勢)」になっています。頭の重さは、体重の約8~10%あります。頭が2・5センチ前方に出る毎に、首にかかる負担は4キロも増加します。
 ハードなデスクワークをこなす人たちは、頭が理想の位置から4センチ以上前に出ている人が大勢います。

 パソコン作業も首肩の筋肉と関節に持続的な負担を強いますが、スマホを覗き込む姿勢は、さらに大きな負担を強いることが判明しています。

 フォワード・ヘッド・ポスチャーが常態化すると、首肩の凝りだけでなく、偏頭痛、顎関節症、呼吸パターンの劣化、自律神経失調症、慢性疲労、五十肩、抑うつなど、様々な問題の引き金になるのです。
 健康寿命を延ばすためには、ヘッド・フォワード・ポスチャーになっている時間を減らすことが大変重要です。

【首に優しいスマホ姿勢】

 イラスト2は、首の角度変化によるストレスの増減を示したものです。
左端から0度 5.5Kg 15度 12.2Kg 30度 18.1Kg 45度 22.2Kg 60度 27.2Kg 

45度くらい首を曲げて、スマホの画面を何十分も覗いている人が大勢いますが、22キロもの負担が首にかかっていることを知ったら、さぞかし驚くことでしょう。
これなら、首や肩が凝ってしまうのが理解できますよね。

 イラスト3は、首への負担を最小限におさえたスマホ操作姿勢です。

 立位や座位に関係なく、骨盤を立てて背筋を伸ばしたニュートラルスパイン(生理学的湾曲)に保つことが大事です。
 次に、スマホを持っている腕の肘を反対の手のひらで支えて、腕と肩の負担を減らします。さらに、あごを引いて舌先を上の歯の裏側に押しあてておくことにより、首のインナーマッスル(筋肉)が働いて、頚椎の安定性を高めることができるのです。

 正しいスマホ姿勢を身に付けて、時々持ち換えるようにすれば、スマホ・シンドロームに陥るリスクを大幅に軽減できます。是非とも、お試しください。

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第12話ギックリ腰にならないお尻の使い方

 物を持ち上げようとしたときに、ギックリ腰になってしまった経験はありませんか? ギックリ腰は、経験した人にしか分からない、辛さと情けなさがあります。「あんな思いは2度としたくない」と、経験者たちは語ります。あまりの痛さに、救急車を呼ぶ人もいます。

 私自身、サッカー選手だった時代に、6回もギックリ腰にやられて、その度、試合に出場するチャンスを逃してきました。どこの国でもゴールキーパーの練習は非常にハードで、「365日半殺し」というのが定番です。

 毎日何百回とセービング(横っ飛びしてボールに飛びつくこと)して、地面に落下するために、ほとんどのゴールキーパーが首や腰に爆弾を抱えています。
 しかし、私が6回ギックリ腰を経験したうちの5回は、練習中や試合中ではありませんでした。テーブルのコップに手を伸ばしたときや、靴を履こうとしているとき、軽いカバンを持ち上げようとしたときだったのです。

 「あんな過酷な練習に耐えられるのに、なぜ、こんな些細な事でギックリ腰を再発させてしまうのか?」
これは、私が腰痛で引退するまで、ずっと悩み続けても答えが見つからなかった疑問です。
実は、重たい物を持ち上げるときよりも、背中を丸めて手を伸ばしたときや、かがんだ状態から起き上がるときなどに、ギックリ腰を起こす可能性が高いのです。
 幸か不幸か、明確な答えと解決策が見つかったのは、選手を引退してからのことでした。

尻を使ってかがむ。持ち上げる

 その対策とは、「どんな時にも、出っ尻でかがんだり、しゃがんだりする」という事でした。腰の反りをキープしたまま出っ尻でかがめば、ギックリ腰を回避できるのです。このフォームは、重量挙げの選手と同じで、腰椎にかかるストレスを尻と太ももの裏側に分散してくれます。
 重量挙げの選手が、誰一人として腰を丸めた状態でバーベルを持ち上げないのは、それだけ腰部にかかる負担が大きくて危険だということです。
 
私たちが知っておくべき大事なことは、出っ尻でかがまなければ、自分自身の頭と上半身の重さだけで腰を壊してしまうという事です。
ハードトレーニングに耐えていながら、些細なことでギックリ腰を繰り返していたのは、私がそれを知らなかったからです。
 
引退してからアメリカ人のトレーナーと出会い、尻を使ったかがみ方としゃがみ方を教わって以来、一度もギックリ腰にはなっていません。筋力を強化したわけでも、柔軟性が増したわけでもなく、尻=股関節を使ったかがみ方、しゃがみ方を覚えただけです。
 出っ尻にしてかがむことを「ヒップヒンジ」と呼びます。そして、ヒップヒンジで持ち上げることを「デッドリフト」と呼びます。この2つのことを無意識にできるようにするのが重要なのです。

「デッドリフト」

 デッドリフトを会得すれば、生涯、ギックリ腰の不安から解放されることでしょう。では、早速ギックリ腰にならない、持ち上げ方とかがみ方についてご説明します。

① バットウォール

 壁から1足分離れて立ちます。膝を少し曲げて、腰の反りをキープしたまま、尻が壁につくように突き出します。壁に尻がついたら、突き出した尻を元に戻して真っ直ぐに立ちます。(20回繰り返す)

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 尻が壁についたときに、太ももの裏側が伸ばされている感じがあれば、適切に行えています。

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② デッドリフト

 両足の間に物を置き、バットウォールと同じ要領でかがんでつかみます。突き出した尻を元の位置に戻して、真っ直ぐに立ちます。最も深くかがんだ位置で、太ももの裏側がストレッチされていれば、適切に行われています。かがむ前に鼻で息を吸い、動作中は呼吸を止めて立ち上がったときに口から息を吐きます。

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 腰痛を治すのは薬でもメスでもありません。ヒップヒンジとデッドリフトのフォームを会得すれば、たいていの腰痛は改善されます。是非とも、実践してみてください。