介護士の腰痛予防と対策セミナー

 今日は水戸市で介護士、理学療法士、看護師の方々を対象にした「腰痛予防と腰痛対策セミナー」を開催してきました。
介護士の約80%が腰痛を自覚しているとも言われ、休職、離職の主な原因となっています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 中腰姿勢でのオムツ交換や入浴の介助、ベッド⇆車椅子へのトレース、床上の体位変換など、腰部に大きなストレスを与える動作のオンパレードで、いつ腰痛が発症しても不思議ではない環境におかれています。

 OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 過日、介護士が起こした事件が世間を震撼させ、当然、加害者への非難が集中したわけですが、個人的に一つ思う事がありました。
それは、介護士たちの心身のコンディションを、雇用者と現場の責任者が把握・管理し、適切なケアをしてきたのかという事です。

犯罪を犯した男性を擁護するつもりは毛頭ありませんが、もし介護士として誇りを持ち続けられるような環境にあって、スタッフに対する十分なケアがなされていたら、あのような悲惨な事件が起きていたのだろうかと愚考します。(どんな環境であろうと、皆が過ちを犯すわけではありませんが)

 待遇とは、給与面のことだけでなく、充足感やモチベーションといった精神面の状態に配慮することも含まれているはずです。
 「そんなのお金を払っているのだから文句言うな」、「それが仕事なんだから」と言う人もいるかも知れませんが、介護士はロボットではなく生身の人間です。老いた親の面倒をみてくれる彼ら、彼女らの身体的、肉体的な負担を包括的にケア・サポートするシステムが機能しなければ、どんどん優秀な人材が他業種へと流出していくことでしょう。
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 今回の講演でベースになったのは、「医療従事者の腰を守る」です。
 伝えたかったのは、「第一に自分のことを労って下さい」という事でした。
 痛みがあると、姿勢や動作パターンが崩れるだけではなく、性格や人格までも変わってしまいます。
 
痛みや機能的な問題を抱えていたら、人に親切にできるでしょうか。上質なサービスを安定して提供することは大切ですが、それを果たすには、サービスを提供する人のコンディションが保たれていることが重要だと、私は考えています。

 昨今、ヒップヒンジという言葉が普及してきて、出っ尻にして屈んだり、物を持ちあげたりすることの重要性がメディアを通して広まってきましたが、介護の業界には十分に浸透しているとは言えません。

ジムで重たいバーベルを持ち上げるためだけに、デッドリフトやスクワットリフトがあるわけではありません。むしろ、医療現場や介護の現場でこそ、それらのスキルや知識が活かされるべきです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 腰に過度な負担をかけずに人を挙上するには、ヒップヒンジとブレーシングだけでは不十分で、肩甲骨を胸郭に固定して上肢の安定性を高める必要があります。今日はその感覚を掴むまで、何度も反復練習してもらいました。

 車椅子やベッドから移乗する際に、相手の足が揃えた状態だと重心の移動が不安定なため、踏ん張られてしまうこともあります。両者が足を前後に開き、介助される人が立腰+足を前後に開脚し、後ろ足の前足部で地面を蹴りだすことによって、ずっと小さな労力で楽に移乗することができるのです。
 参加された方々の反応から、アドバイスした事が実践的で実効性が高いことが伺えました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
 
 介護士への社会的なニーズは高まる一方、若い人たちで介護士に成ろうとする人は減っています。過酷で体を壊しやすいうえに尊敬を得られない事などが影響しているそうです。
 ただでさえ人材が不足している中で、十分に経験を積んだ介護士の方々が、腰痛で休職・離職してしまうようなケースが少しでも減るように、機会があれば継続的に介護士を対象にした講演を開催していきたいと思っています。